消費者の行動を変える食品ロス対策:企業が実践するCSR事例
消費者行動に着目した食品ロス対策の重要性
食品ロス問題において、家庭からの発生量は大きな割合を占めています。消費者一人ひとりの購買、保存、調理、消費における行動が、食品ロス削減に直接影響を与えるため、企業による消費者への働きかけはCSR活動として非常に重要です。単に啓発を行うだけでなく、消費者が「もったいない」を実感し、行動を変えるきっかけとなる具体的なソリューションを提供することが求められています。本記事では、消費者の行動変容を促すことに焦点を当てた企業のCSR活動事例を紹介し、その実践的なアプローチや示唆について考察します。
事例1:情報提供と商品促進を組み合わせる小売業の取り組み
ある大手小売業A社では、家庭での食品ロス削減を目指し、情報提供と売り場での商品促進を組み合わせたCSR活動を展開しています。
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取り組みの具体的な内容、仕組み:
- ウェブサイト/アプリでのレシピ提案: 期限が迫った食材や、比較的安価で購入できる規格外品(例えば、形が不揃いの野菜など)を活用したレシピをウェブサイトや公式アプリで定期的に公開しています。これらのレシピは、人気料理研究家との連携により開発され、実用的で魅力的な内容となっています。
- 鮮度保持パッケージ商品の推奨販売: 食品の鮮度を長く保つことができる特別なパッケージを採用した商品を積極的に推奨販売しています。これにより、消費者がまとめ買いをしても無駄なく使い切れるようにサポートしています。
- 店頭での啓発活動: 野菜売り場や加工食品売り場の一角に、食品ロス削減の重要性や家庭でできる工夫を紹介する啓発ポスターやPOPを設置しています。
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活動を開始した背景や目的: 消費者アンケートの結果から、「ついうっかり買いすぎてしまった」「使い切る前に悪くなってしまった」といった理由で食品を廃棄している人が多いことが明らかになりました。この現状を受け、消費者の購買後の行動に焦点を当て、最後まで美味しく使い切るための支援を行うことを目的としています。
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取り組みによって達成された成果や効果: 特定の規格外野菜を活用したレシピ公開後、対象商品の売上が一時的に増加する傾向が見られました。また、レシピ閲覧数やウェブサイトのアクセス数が増加し、情報提供が一定の関心を集めていることが確認されました。消費者アンケートでは、「レシピを参考にするようになった」「鮮度保持パッケージの商品を選ぶようになった」といった行動変化の兆候が見られました。
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活動の中で直面した課題、困難、そしてそれをどのように克服したか: 課題の一つは、情報提供だけでは行動変容に繋がりにくい点でした。これを克服するため、情報提供と連動して対象商品の店頭での陳列を工夫したり、値引きシールと組み合わせて消費者の購買意欲を高めるなどの工夫を行いました。また、レシピ開発には専門家の協力が不可欠であり、継続的なコンテンツ提供のための体制構築に時間とコストがかかっています。
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他企業、NPO/NGO、自治体、研究機関など、外部との連携事例やその効果: レシピ開発においては、著名な料理研究家や栄養士と連携し、専門的な知見に基づいた魅力的なコンテンツを制作しています。これにより、情報の信頼性と魅力が高まり、より多くの消費者にリーチできています。鮮度保持パッケージについては、特定のパッケージメーカーと連携し、技術的な情報交換を行っています。
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活動の成果をどのように評価しているか: ウェブサイトやアプリのアクセス解析(レシピ閲覧数、滞在時間など)、対象商品の売上データ、定期的な消費者意識調査(アンケート)などを組み合わせて評価しています。行動変容そのものを直接測定することは難しいものの、これらの間接的な指標から取り組みの効果を分析しています。
事例2:商品開発で「使い切り」を後押しする食品メーカーの取り組み
ある食品メーカーB社は、商品の企画・開発段階から消費者の食品ロス削減に貢献することを意識した取り組みを進めています。
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取り組みの具体的な内容、仕組み:
- 適量・使い切りサイズ商品の拡充: 特に一人暮らしや少人数世帯の増加といった社会構造の変化に対応し、従来の標準サイズに加え、少量でも無駄なく使える使い切りサイズや小分けパックの商品ラインナップを拡充しています。
- パッケージでの情報強化: パッケージに、開封後の推奨保存方法や、美味しさを保つためのちょっとしたコツ、賞味期限・消費期限に関する情報を、より分かりやすく、視覚的に訴求するデザインで表示しています。
- ウェブサイトでの「無駄なく使い切り術」コンテンツ: 商品を最後まで美味しく使うためのアレンジレシピや、保存方法のアイデア、食材別の長持ちさせるコツなどをまとめたコンテンツをウェブサイトで提供しています。
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活動を開始した背景や目的: 自社製品が家庭でロスになることを削減したいという思いと、消費者の「使い切れずに捨ててしまう」という困りごとを解決したいという目的がありました。商品を通じて直接的に食品ロス削減に貢献できると考え、開発部門と連携してこの取り組みを開始しました。
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取り組みによって達成された成果や効果: 使い切りサイズや小分けパックの商品が、特に少人数世帯や高齢者層を中心に好評を得ており、該当商品の売上が計画を上回るケースが見られます。消費者からのフィードバックでも、「このサイズなら使い切れる」「無駄が減った」といった声が多く寄せられています。ウェブサイトのコンテンツも一定のアクセスがあり、参考になっているという意見が見られます。
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活動の中で直面した課題、困難、そしてそれをどのように克服したか: 課題としては、小分けや特殊パッケージ化による製造コストの上昇が挙げられます。また、既存の生産ラインでは対応が難しい場合もあり、新しい設備投資が必要となるケースもあります。これらの課題に対しては、段階的に導入を進めたり、特定の主力商品から開始するなど、事業継続性とのバランスを取りながら取り組んでいます。また、パッケージ情報の伝達には限界があるため、ウェブサイトなど他のチャネルと連携して詳細情報を提供する工夫をしています。
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他企業、NPO/NGO、自治体、研究機関など、外部との連携事例やその効果: 商品開発自体は主に社内主導で行っていますが、パッケージデザインや情報伝達方法については、デザイン会社や消費者行動研究機関との連携を通じて、より効果的なアプローチを模索しています。
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活動の成果をどのように評価しているか: 主に商品別の売上データ、顧客アンケート調査、お客様相談室に寄せられる声、SNSでの評判などを通じて評価しています。商品の売上増は、消費者のニーズに応えられていることの一つの指標と考えています。
読者(CSR担当者)への示唆
上記の事例から、消費者の行動変容を促す食品ロス対策のCSR活動において、いくつかの重要な示唆が得られます。
- 多角的なアプローチの重要性: 単に啓発メッセージを発信するだけでなく、情報提供(レシピ、保存方法)、商品開発(サイズ、パッケージ)、売り場での工夫など、消費者が食品ロスを減らすための具体的な「手段」や「選択肢」を提供することが効果的です。消費者のライフスタイルや困りごとに寄り添った多角的なアプローチが求められます。
- 「お得」や「便利」といった消費者メリットとの連携: 「食品ロスを減らす」という社会貢献だけでなく、「無駄なく使えて経済的」「美味しい状態を長く楽しめる」「調理の負担が減る」といった、消費者が直接的にメリットを感じられる点を訴求することが、行動変容の強力な動機付けとなります。倫理的な訴えと実利的なメリットを組み合わせる視点が重要です。
- デジタルツールの活用: ウェブサイトやアプリを活用することで、レシピや保存方法などの情報を効果的に、かつタイムリーに提供できます。動画コンテンツなども活用し、視覚的にも分かりやすく工夫することで、より多くの消費者の関心を引くことが期待できます。
- 成果測定の工夫: 消費者の行動変容は複雑であり、その効果を定量的に測定するのは容易ではありません。直接的なデータ(例:削減できた食品ロス量)が得られない場合でも、間接的な指標(例:関連商品の売上、ウェブサイトアクセス数、アンケート結果、顧客の声、SNSでの言及)を多角的に分析することで、取り組みの成果や課題を把握することが可能です。
- 部門横断的な連携: 消費者向けのアプローチは、CSR部門だけでなく、商品企画、開発、製造、販売促進、マーケティングなど、社内の様々な部門との連携が不可欠です。部門間の壁を越えた協力体制を築くことが成功の鍵となります。
これらの事例は、食品関連企業がCSR活動を通じて消費者の食品ロス削減に貢献するための実践的なヒントを提供しています。単なる情報の提供に留まらず、消費者の「困った」に寄り添い、具体的な解決策や新しい価値を提供することで、食品ロス削減という社会課題の解決と、企業価値の向上を両立させることが可能です。
まとめ
食品ロス削減は、企業の社会的責任を果たす上で不可欠な課題です。特に消費者段階でのロス削減には、企業からの積極的な働きかけが求められます。情報提供、商品開発、販売促進など、企業が持つ様々な機能を活用し、消費者の行動変容を促す具体的なCSR活動は、食品ロス削減に大きく貢献する可能性を秘めています。
これらの活動は、消費者とのエンゲージメントを深め、企業のブランドイメージ向上にも繋がります。CSR担当者としては、自社の事業特性や強みを活かし、どのようなアプローチが消費者の行動変容に繋がりやすいかを検討し、具体的な施策を企画・実行していくことが重要です。他社の事例を参考にしながらも、自社ならではのユニークな視点やアイデアを取り入れ、消費者と共に食品ロス削減を目指す活動を推進していくことが期待されます。今後の取り組みにおいて、本記事が何らかのヒントとなれば幸いです。