透明性を高める食品ロス測定:FLW Standard活用事例とCSR報告
食品ロス削減の鍵を握る「正確な測定」
食品ロス削減は、持続可能な社会の実現に向けた喫緊の課題であり、多くの食品関連企業がCSR活動の重点領域として位置づけています。しかし、「どれだけの食品ロスが発生しているのか」を正確に把握し、その進捗を効果的に管理・報告することは容易ではありません。企業内で統一された測定方法が確立されていない場合、部門間や拠点間での比較が困難になったり、削減努力の成果が定量的に評価できなかったりといった課題が生じます。
このような背景から、食品ロスの測定、報告、検証に関する国際的な基準である「食品ロス・食品廃棄物 会計報告基準」(FLW Standard)が注目されています。本稿では、FLW Standardの概要に触れつつ、このグローバル基準を導入・活用することで、企業がどのように食品ロス削減活動の透明性と効果を高め、CSR報告に活かしているかの事例と示唆を提供します。
FLW Standardとは:測定・報告のグローバル標準
FLW Standardは、世界資源研究所(WRI)などが中心となり策定した、食品ロス・食品廃棄物の量を客観的かつ一貫性を持って測定・報告するための枠組みです。サプライチェーンのあらゆる段階(農場、製造、流通、小売、消費)で発生する食品ロスを対象とし、「なぜ測るのか」「何を測るのか」「どのように測るのか」といった基本的な考え方から、具体的な測定方法、報告の範囲、検証の方法までを定義しています。
この基準の最大の利点は、測定結果の信頼性と比較可能性を飛躍的に向上させる点にあります。企業はFLW Standardに準拠することで、自社の食品ロス発生状況を時系列で正確に把握できるだけでなく、業界平均や他社との比較、さらにはグローバル目標(SDGsターゲット12.3など)に対する貢献度を明確に評価できるようになります。これは、単に食品ロスを削減するだけでなく、その取り組みの成果を社内外のステークホルダーに対し、透明性をもって報告する上で不可欠です。
FLW Standard導入の推進と企業事例
グローバルに事業を展開する大手食品メーカーや小売業者を中心に、FLW Standardまたはそれに準ずる測定方法の導入が進んでいます。これらの企業が導入を決断する背景には、CSRに対する投資家の要求の高まり、国際的な目標達成への貢献意欲、そしてサプライチェーン全体の効率化といった多岐にわたる目的があります。
事例に見る導入プロセスと成果:
あるグローバル食品企業では、以前は各拠点・部門で独自の基準で食品ロスを測定しており、全体像の把握が困難でした。FLW Standardの導入にあたり、まず社内に専門チームを設置し、基準の内容理解と社内での適用範囲の定義から始めました。次に、各工場、物流拠点、オフィスなどからのデータ収集方法を標準化し、ITシステムを活用した一元管理体制を構築しました。
この取り組みにより、以下のような成果が見られました。
- 正確な現状把握と目標設定: 各プロセスで発生する食品ロスの種類と量が正確に把握できるようになり、データに基づいた具体的な削減目標設定と優先順位付けが可能になりました。
- 根本原因の特定: データ分析を通じて、特定の工程や製品ラインでのロス発生率が高いこと、あるいは特定のサプライヤーからの納品ロットでロスが発生しやすいことなどが明らかになり、根本原因の特定と対策立案が進みました。
- 部門横断の連携強化: 標準化されたデータが共有されることで、製造、物流、販売、研究開発など、異なる部門間での課題認識が共有され、協力体制が強化されました。
- 外部への透明性向上: FLW Standardに準拠したデータは信頼性が高く、CSR報告書やウェブサイトでの情報開示に積極的に活用できるようになりました。これにより、投資家や消費者からの評価向上に繋がっています。
導入における課題と克服策
FLW Standardの導入は多くのメリットをもたらしますが、いくつかの課題も存在します。
- データ収集の複雑性: 多様な形態で発生する食品ロス(未利用、売れ残り、不良品、副産物など)を、サプライチェーンの各段階で正確に、かつ継続的に収集するための仕組みづくりは容易ではありません。特に小規模な拠点や外部委託先からのデータ収集には工夫が必要です。
- 既存システムとの連携: 既存の生産管理システムや会計システムがFLW Standardの要件に完全に対応していない場合、システム改修やデータ統合に多大な労力とコストがかかる可能性があります。
- 従業員の理解と協力: 新しい測定基準の導入には、現場の従業員の理解と協力が不可欠です。正確な記録の重要性や、なぜこのデータが必要なのかといった啓発活動を丁寧に行う必要があります。
克服策の例:
前述の事例企業では、データ収集の課題に対し、チェックリスト形式の導入や、現場担当者向けの簡易入力ツールの開発、定期的な研修実施などで対応しました。また、既存システムとの連携については、段階的なデータ統合計画を策定し、まずは手動でのデータ収集・集計から始め、徐々にシステム連携を進めるアプローチをとりました。従業員に対しては、食品ロス削減が企業の効率化だけでなく、持続可能性に貢献する重要な取り組みであることを繰り返し伝え、現場からの改善提案を積極的に取り入れることで主体性を醸成しました。
読者への示唆:自社での応用に向けて
自社の食品ロス削減CSRを次のレベルへ引き上げるために、FLW Standardのような測定基準の導入は非常に有効な手段となり得ます。
- まずは現状把握から: FLW Standardの導入に踏み切る前に、まずは社内でどのような形で食品ロスが発生し、どのように測定・記録されているかを棚卸しすることから始めましょう。部門ごとにバラバラな基準で測定されていないか、計測漏れはないかなどを確認します。
- 小さく始める: サプライチェーン全体での完璧な導入を目指す前に、特定の工場や物流拠点、あるいは特定の製品カテゴリーに限定してFLW Standardを試験的に適用することも有効です。成功事例を蓄積し、全社展開への足がかりとします。
- 関係部署を巻き込む: 食品ロスは単一部門の課題ではありません。製造、物流、販売、購買、品質管理、経理など、関係するあらゆる部署を巻き込み、共通の目標設定とデータ共有の仕組みを構築することが重要です。
- 測定結果をアクションに繋げる: 測定すること自体が目的ではなく、測定結果を分析し、具体的な削減施策の立案や効果測定に活かすことが最も重要です。定期的に測定結果をレビューし、ボトルネックとなっている箇所や成功している取り組みを特定します。
- CSR報告への反映: 測定結果とそれに基づいた削減努力の成果を、CSR報告書やサステナビリティレポートで積極的に開示しましょう。FLW Standardに準拠していることを明記することで、報告の信頼性が向上し、ステークホルダーからの評価に繋がります。
まとめ:正確な測定が拓く食品ロス削減の未来
食品ロス削減の取り組みは、単なる廃棄物削減ではなく、資源効率の向上、コスト削減、そして企業イメージの向上に繋がる重要なCSR活動です。そして、その活動の効果を最大限に引き出し、ステークホルダーに適切に伝えるためには、正確で透明性の高い測定・報告が不可欠です。
FLW Standardのようなグローバル基準の導入は、初期段階で一定のハードルが存在するかもしれませんが、長期的に見れば、食品ロス発生量の正確な把握から、データに基づいた効率的な削減施策の実施、そして信頼性の高いCSR報告へと繋がります。これは、企業の持続可能性へのコミットメントを示す強力なメッセージとなり、CSRの差別化や競争力の強化に貢献するでしょう。自社の食品ロス削減CSRを見直し、正確な測定の力で次のステップに進むことを検討されてはいかがでしょうか。