規格外品・期限間近品を価値に変える:新しい販売チャネル活用事例
規格外品・期限間近品を価値に変える:新しい販売チャネル活用事例
食品ロス削減は、多くの食品関連企業にとって重要なCSR課題の一つです。特に製造段階で発生する規格外品や、流通過程で期限が迫った商品は、品質には問題がないにもかかわらず廃棄されるケースが多く、その削減が求められています。近年、こうした食品に新たな価値を与え、食品ロスを削減するための新しい販売チャネルが登場し、企業のCSR活動として注目を集めています。本稿では、オンラインプラットフォームや独自の直販チャネルを活用した企業の事例を紹介し、その取り組みから得られる示唆について考察します。
新しい販売チャネル活用の背景と目的
規格外品や期限間近品が発生する原因は多岐にわたります。製造工程での軽微な傷や形状不良、パッケージの変更、季節限定品の過剰在庫、あるいは物流の都合で小売店舗に並べられなくなるものなどです。これらは従来の大量生産・大量消費型のビジネスモデルにおいては、効率やコストの観点から廃棄されることが一般的でした。
しかし、食品ロス削減への社会的関心の高まり、SDGs達成への貢献、そして企業イメージ向上といったCSRの観点から、これらの「もったいない」食品を有効活用する動きが加速しています。従来のフードバンクへの寄付に加え、収益を伴う形でこれらの食品を流通させる新しい販売チャネルが、企業にとって新たな選択肢となっています。その目的は、単なる廃棄コストの削減に留まらず、資源の有効活用、新たな収益機会の創出、そして消費者への啓発など、多角的な効果を目指すことにあります。
具体的な事例に見る新しい販売チャネルの活用
新しい販売チャネルにはいくつかの形態がありますが、ここでは代表的なものを事例とともに紹介します。(以下は既存の取り組みを参考に構成したフィクションの事例を含みます。)
事例1:B2Bオンラインマッチングプラットフォームの活用(食品メーカーA社)
大手菓子メーカーA社では、製造過程で発生する形状不揃いのクッキーや、印字ミスのあるチョコレートなどが一定量発生していました。これらは味や品質に問題ありませんが、ブランド基準に満たないため通常ルートでは販売できませんでした。そこで同社は、飲食店や宿泊施設など食品事業者が規格外品や在庫余剰品を割引価格で購入できるB2Bオンラインマッチングプラットフォーム「Food Bridge(仮称)」と提携しました。
- 取り組み内容: 製造工場から直接、プラットフォームの倉庫または指定場所へ商品を搬出。プラットフォーム上で商品情報(種類、数量、期限、割引率など)を掲載し、買い手を募る。
- 成果: プラットフォーム活用により、年間約50トンの規格外品廃棄を削減。新たな販路が確保できたことで、廃棄にかかっていたコストが削減されただけでなく、一定の収益も生まれた。飲食店からは「コストを抑えつつ、品質の良い食材を仕入れられる」と好評を得ている。
- 課題: 多品種少量の出品が中心となるため、情報登録や出荷準備に一定の手間がかかる。また、プラットフォーム側の物流能力や買い手側のニーズに左右される側面がある。
- 克服策: 基幹システムとのデータ連携を進め、出品作業の効率化を図った。プラットフォーム運営者と密に連携し、売れ筋商品の情報交換やプロモーションを共同で実施。
事例2:B2C食品ロス削減オンラインストアへの出品(小売業B社)
広範囲に店舗を展開するスーパーマーケットB社では、賞味期限が近づいた加工食品や、パッケージ変更に伴う旧デザイン品などが店舗や物流倉庫で発生していました。これらの食品を消費者に直接販売するため、食品ロス削減に特化したB2Cオンラインストア「Zero Food Life(仮称)」へ出品を開始しました。
- 取り組み内容: 各店舗や物流倉庫で発生した食品を、基準(例:賞味期限まで〇日以上あること)を満たすものに限定し、オンラインストア経由で消費者に特別価格で販売。商品は個別に梱包され、提携配送業者により届けられる。
- 成果: 全体的な食品廃棄率が〇%削減され、廃棄コスト抑制に貢献。オンラインストアを通じて、食品ロスに関心を持つ新たな顧客層にリーチできた。CSR活動としてメディアに取り上げられる機会も増加。
- 課題: オンライン販売特有の物流コスト負担。消費者への「食品ロス品」であることの適切な情報伝達と理解促進。既存の店舗販売との棲み分け。
- 克服策: 複数の企業と連携し、共同配送網を構築することで物流コストを抑制。商品ページでは食品ロス削減への貢献を前面に出し、消費者への啓発を同時に行った。特定の曜日・時間帯を「食品ロス削減セール」として定着させ、定期的な購入を促した。
事例3:企業独自の直販オンラインストア開設(農産物加工メーカーC社)
地域特産の農産物を加工するメーカーC社では、収穫時の規格外品(サイズや形状が不揃い)や、製造過程で出た端材(例:ジャム製造時の果物の皮や種の一部)を製品に活用しきれず、廃棄していました。これらの活用を目指し、独自のオンラインストア「もったいないファクトリーストア(仮称)」を開設しました。
- 取り組み内容: 規格外品を使用した「わけあり品セット」や、端材をアップサイクルした新しい加工品(例:ジャムの皮を使ったドライフルーツ、種を使ったスパイスミックスなど)を企画・開発し、自社オンラインストアで販売。製造工程で出た副産物を活用するレシピなどを紹介するコンテンツも掲載。
- 成果: 規格外品・端材の廃棄量を大幅に削減。新しいアップサイクル商品が話題を呼び、新たな収益源と企業イメージ向上に貢献。ストーリー性のある商品販売を通じて、企業哲学やCSRへの取り組みを消費者に直接伝えることができた。
- 課題: 新しい商品開発やオンラインストア運営に関するノウハウ不足。限定品が多いため、安定的な供給量の確保が難しい。
- 克服策: 他社のオンライン販売ノウハウを参考に、専門家のアドバイスを受けながらサイト構築・運営を実施。規格外品の発生状況に合わせて販売計画を柔軟に調整し、SNSで販売情報をタイムリーに発信。端材を活用した商品の種類を増やし、年間を通じて販売できるラインナップを強化。
読者への示唆:自社CSR活動への応用ヒント
これらの事例から、新しい販売チャネルの活用は、食品ロス削減という環境・社会課題への貢献だけでなく、企業にとって新たな価値創造の機会となることが分かります。自社のCSR活動としてこのアプローチを検討する際、以下の点を参考にしてください。
- 対象となる食品ロスの特定: 自社で発生する食品ロスの中で、品質に問題がなく、新しいチャネルでの販売に適したものが何かを具体的に特定することから始めます。規格外品、包装変更品、期限間近品など、種類によって最適なチャネルやターゲット顧客は異なります。
- ターゲット顧客とチャネルの選択: 誰に(食品事業者向けか一般消費者向けか)、どのような形で(既存プラットフォーム利用か自社開発か)販売するかを検討します。B2Bプラットフォームは大量に捌きたい場合、B2Cオンラインストアは消費者との直接的な繋がりや啓発を重視する場合に適しています。自社独自のチャネルは、ブランドストーリーを伝えたり、アップサイクル品を販売したりするのに有効です。
- パートナーとの連携: プラットフォーム事業者、物流業者、場合によっては商品開発の専門家など、外部パートナーとの連携が不可欠です。信頼できるパートナーを選定し、互いの強みを活かせる関係を構築することが成功の鍵となります。
- オペレーション設計: 食品の保管、品質管理、梱包、発送/引き渡しなど、従来の流通とは異なるオペレーションが発生します。既存の体制との連携や、効率的な新しいプロセスの設計が重要です。特に鮮度が重要な食品は、配送エリアや方法を工夫する必要があります。
- 情報発信と啓発: 「食品ロス削減」という文脈で販売する際は、商品の品質に問題がないことを丁寧に伝えるとともに、購入が食品ロス削減に貢献することを発信し、消費者の共感を呼ぶことが重要です。ストーリー性のある情報提供は、単なる割引販売に終わらせないための有効な手段です。
- 成果の評価: 削減できた食品ロスの量(定量)、廃棄コスト削減額、新たな収益額、そして従業員のモチベーション向上や企業イメージ向上(定性)など、複数の側面から成果を評価することが、活動を継続・改善していく上で不可欠です。
まとめ
規格外品や期限間近品の食品ロスは、多くの企業にとって共通の課題であり、同時に大きな削減ポテンシャルを秘めています。本稿で紹介したような新しい販売チャネルの活用は、これらの食品に新たな価値を与え、環境負荷低減、コスト削減、収益確保、そして企業イメージ向上といった多面的な成果をもたらす強力なCSRツールとなり得ます。
新しいチャネルの構築や既存プラットフォームへの参画には、物流やオペレーション、マーケティングなど、いくつかの課題も伴います。しかし、自社の状況に適したチャネルを選定し、信頼できるパートナーと連携し、消費者への丁寧な情報発信を心がけることで、これらの課題は克服可能です。
食品ロス削減に向けた取り組みがマンネリ化している、あるいは更なる削減余地を探しているCSR担当者の方にとって、新しい販売チャネルの活用は、課題打破と差別化に繋がる有効な一手となるでしょう。今後も、こうした新しいアプローチによる食品ロス削減の取り組みが、多様な形で展開されていくことが期待されます。