社内連携で加速する食品ロス削減:購買、製造、営業部門をつなぐCSR戦略
食品ロス削減における社内連携の重要性
食品ロス削減は、多くの食品関連企業にとって喫緊の課題であり、CSR活動の重要な柱の一つとなっています。これまで、サプライヤーとの連携による調達段階でのロス削減、製造工程における歩留まり改善、小売・流通段階での在庫管理最適化、消費者への啓発活動など、様々な取り組みが進められてきました。
しかしながら、食品ロスはサプライチェーン全体にわたる複雑な問題であり、特定の部署だけ、あるいは外部との連携だけで根本的な解決を図ることは困難です。特に、企業内部における部署間の連携不足が、思わぬ食品ロスを生み出す原因となっているケースは少なくありません。例えば、購買部門の発注計画が製造部門の生産計画と十分に連携していなかったり、製造部門の生産情報が営業部門の販売戦略とリアルタイムに共有されていなかったりすることで、過剰な在庫や規格外品の発生、販売機会の損失による廃棄などが発生し得ます。
CSR部門は、このような社内の縦割りを越え、食品ロス削減という共通の目標に向けて各部署をつなぐハブとしての役割を果たすことが期待されています。社内連携を強化することは、単に食品ロスを減らすだけでなく、業務効率の向上、コスト削減、そして最終的には企業全体のレジリエンス強化にも繋がります。
社内連携による食品ロス削減の取り組み事例
ここでは、社内連携を通じて食品ロス削減に取り組む企業の事例をいくつかご紹介します。具体的な企業名を挙げる代わりに、取り組みのメカニズムとその効果に焦点を当てて解説します。
事例1:購買・製造連携による原材料ロス削減
ある食品メーカーでは、購買部門と製造部門の連携を強化することで、原材料の調達段階および製造工程でのロス削減に成功しました。
- 取り組みの具体的な内容、仕組み:
- 原材料の発注量を決定する際、製造部門の週間・月間生産計画だけでなく、過去の歩留まりデータや設備の稼働状況、品質基準の変動リスクなどを購買部門と共有。
- 製造部門は、特定の原材料の品質基準や加工特性に関する情報を購買部門に定期的にフィードバック。これにより、購買部門はより適切なサプライヤー選定や、品質にばらつきがある場合の対応策を検討できるように。
- 規格外品が発生しやすい原材料について、購買・製造・研究開発部門が連携し、代替用途の開発や規格緩和の可能性を検討。
- 原材料の納品リードタイムや保管条件に関する情報を共有し、必要量の都度調達や在庫の最適化を図る。
- 活動を開始した背景や目的: 原材料の調達計画と生産計画のミスマッチによる過剰在庫や、品質ばらつきによる製造工程での歩留まり低下が課題となっていたため。コスト削減と食品ロス削減を同時に実現することが目的。
- 成果や効果: 特定の主要原材料における食品ロス率を前年度比で〇〇%削減。在庫日数の短縮による保管コスト削減。部署間のコミュニケーションが円滑になり、問題発生時の対応スピードが向上。
- 課題と克服策: 当初は、購買部門は価格と安定供給、製造部門は品質と生産効率を優先するなど、部署間で目標が異なり、連携が進みにくい側面がありました。これを克服するため、経営層が「食品ロス削減率」を全社共通の重要KPIの一つとして設定。また、定期的な合同会議や情報共有システムの導入、部署横断プロジェクトチームの発足により、共通認識の醸成と連携の仕組みを構築しました。
事例2:製造・営業連携による製品在庫ロス削減
別の食品企業では、製造部門と営業部門が密に連携することで、製品の滞留在庫や廃棄を削減しました。
- 取り組みの具体的な内容、仕組み:
- 営業部門は、販売予測、受注情報、販促計画などを製造部門とタイムリーに共有。特に、季節変動やキャンペーンによる需要の増減、終売予定の製品に関する情報は早期に連携。
- 製造部門は、生産能力、現在の在庫状況、製造リードタイムなどを営業部門に提供。これにより、営業部門は実現可能な納期や数量を把握し、販売計画に反映。
- 週次の合同会議を実施し、需給計画の調整、生産状況と販売状況の確認、課題の共有を行う。
- 在庫情報システムを両部門が共有し、リアルタイムな製品在庫状況に基づいた生産・販売判断を可能にする。
- 活動を開始した背景や目的: 営業部門が立てた販売計画と製造部門の生産計画にずれが生じ、売れ残った製品が賞味期限切れとなるケースが頻発していたため。製品廃棄に伴うコストと環境負荷の削減が目的。
- 成果や効果: 製品の廃棄量が前年度比で〇〇トン削減。滞留在庫の金額が〇〇円減少。販売機会ロスも抑制され、売上向上にも貢献。需給調整の精度が向上し、突発的な対応が減少。
- 課題と克服策: 営業部門は売上最大化を、製造部門は生産効率とコストを重視する傾向があり、意見の衝突が見られました。課題克服のため、両部門の目標に「食品ロス削減額/率」を組み込む形で連携KPIを設定。また、合同会議ではデータに基づいた客観的な議論を促し、感情論ではなく事実に基づく意思決定を重視する文化を醸成しました。さらに、需要予測の精度向上に向け、データ分析ツールの導入と担当者間のトレーニングを実施しました。
分析・考察:社内連携を成功させるための示唆
上記の事例から、社内連携による食品ロス削減を推進するための重要な要素が見えてきます。
- 情報共有の徹底: 部署間でタイムリーかつ正確な情報を共有することが連携の基盤となります。販売計画、生産計画、在庫状況、品質情報、需要予測など、関連するあらゆる情報をオープンに共有する仕組みが必要です。共有システムの導入も有効ですが、それ以上に重要なのは、情報を共有しようという組織文化です。
- 共通目標の設定: 部署ごとの個別目標だけでなく、「食品ロス削減率〇〇%達成」のような全社共通の目標や、連携によって達成される「需給調整精度〇〇%向上」といった連携に特化したKPIを設定することが有効です。共通目標を持つことで、各部署は部分最適ではなく全体最適を意識するようになります。
- 経営層のコミットメント: 部署間の壁は組織文化や過去の慣習に根差していることが多く、現場レベルだけの努力では乗り越えられない場合があります。経営層が食品ロス削減と社内連携の重要性を認識し、強力なリーダーシップを発揮することで、部署を横断する取り組みが推進されやすくなります。
- 定期的な対話の場: 部署間の担当者が定期的に顔を合わせ、現状の課題や将来の見通しについて直接話し合う場を設けることが重要です。週次や月次の合同会議、プロジェクトベースの協業などを通じて、相互理解を深め、信頼関係を構築することで、円滑な連携が可能になります。
- CSR部門の役割: CSR部門は、食品ロス削減という全社的なテーマを設定し、各部署の取り組みをコーディネートする役割を担うことができます。部署間の課題を把握し、解決策を提案したり、成功事例を社内で共有したりすることで、連携を促進する触媒となります。また、食品ロス削減の意義や目標を全社に浸透させるための啓発活動も重要な役割です。
これらの要素は、食品関連企業のCSR担当者が自社の食品ロス削減活動を推進する上で、マンネリ化を打破し、より実践的で効果的なアプローチを模索する上でのヒントとなります。既存の仕組みの中で、部署間の連携という視点を取り入れることで、これまで見過ごされていたロス削減の機会を発見できる可能性があります。
まとめ:社内連携が拓く食品ロス削減の新たな可能性
食品ロス削減は、環境負荷低減、資源の有効活用、そして事業効率向上という多面的なメリットをもたらします。サプライチェーンの外部連携に加え、購買、製造、営業といった社内各部署が緊密に連携することで、食品ロス削減の取り組みは一層加速されます。
社内連携は、単にオペレーションを効率化するだけでなく、部署間の相互理解を深め、組織全体のコミュニケーションを活性化し、より柔軟で変化に強い組織文化を醸成する効果も期待できます。CSR部門が中心となり、食品ロス削減を共通言語として社内各部署をつなぐことで、持続可能な事業活動に向けた強固な基盤を築くことが可能となります。
今後、食品関連企業が持続可能な社会の実現に貢献していく上で、社内連携による食品ロス削減はますます重要な戦略となるでしょう。他社の事例を参考にしながら、自社の組織文化や事業特性に合わせた連携モデルを構築していくことが求められます。