食の専門性を活かす食品ロス削減:レシピ開発・調理技術による啓発と実践事例
はじめに
食品ロス削減は、企業のCSR活動において喫緊かつ重要なテーマです。多くの企業がサプライチェーン全体での削減や、規格外品の活用、テクノロジー導入など多岐にわたるアプローチを展開しています。しかし、食品関連企業ならではの強み、すなわち「食」に関する専門知識を活かした食品ロス削減アプローチは、まだ十分に探求されていない側面があるかもしれません。本稿では、レシピ開発や調理技術といった「食の専門性」を核とした食品ロス削減CSR活動に焦点を当て、その可能性、具体的な事例、そして読者である企業のCSR担当者が自社の活動に応用するための示唆を提供します。
食の専門性を活用する意義
食品ロスが発生する大きな要因の一つに、家庭や事業所での食材の使い切りや適切な調理・保存方法に関する知識不足があります。食品企業は、製品開発や調理に関する高度な専門知識、技術、そして消費者の食生活に対する深い理解を有しています。これらの知見を食品ロス削減に活用することは、単なる啓発に留まらず、より実践的で効果的な行動変容を促す potent なアプローチとなり得ます。
具体的には、以下のような貢献が期待できます。
- 規格外品や余剰食材の活用方法提示: 見た目が不揃いな野菜、製造過程で発生する端材、賞味期限が迫った加工品などを美味しく使い切るための具体的なレシピや調理法を提供できます。
- 適切な保存・調理技術の普及: 食材を長持ちさせる保存方法や、無駄なく調理する技術を分かりやすく伝えることで、家庭や事業所でのロス削減に直接貢献します。
- 「もったいない」を価値に変える提案: 普段捨てられがちな部分(野菜の皮、ヘタなど)を活用したレシピや、少量でも満足できる工夫を凝らしたメニューなどを提案し、「捨てない食」の価値を高めます。
- 食に関する教育機会の提供: 食育の観点から、食品ロス問題と関連付けた料理教室やワークショップなどを企画し、楽しみながら学べる機会を提供します。
事例:食品メーカーによる規格外品活用レシピ開発と情報発信
ある食品メーカーでは、自社製品の原材料となる野菜や果物の一部が流通過程や製造ラインで発生する「規格外品」となってしまう課題に直面していました。これらの多くは品質に問題がないにも関わらず廃棄されてしまうため、環境負荷だけでなく経済的な損失も生じていました。
同社のCSR部門は、この課題に対し、自社の研究開発部門や広報部門と連携し、「規格外品活用レシピ開発プロジェクト」を開始しました。
具体的な取り組み内容・仕組み:
- 規格外品の特定と特性分析: 廃棄対象となる規格外品の具体的な種類、発生量、そして調理特性(例: サイズが不揃いだが味は同じ、皮に傷があるだけなど)を詳細に把握しました。
- 専門家によるレシピ開発: 自社の製品開発に携わるシェフや栄養士、フードコーディネーターなどの専門家チームが、これらの規格外品を美味しく、手軽に調理できるオリジナルレシピを開発しました。例えば、不揃いのジャガイモを使ったポタージュ、形が崩れたフルーツを使ったジャムやスムージーなどです。
- 多角的な情報発信: 開発したレシピは、同社のウェブサイト内に特設ページを設け公開しました。さらに、公式SNSでの定期的な投稿、食品スーパーとの連携による店頭POPでのレシピ紹介、料理教室イベントの開催などを通じて、広く一般消費者や業務用ユーザーに情報発信を行いました。
- 社内での実践推奨: 社員食堂での規格外品活用メニューの提供や、社内報でのレシピ紹介などを通じて、従業員の食品ロス削減意識向上と実践を促しました。
成果と効果:
- 食品ロス削減への直接貢献: 開発したレシピの活用により、一部の規格外品が有効活用されるようになり、廃棄量の削減に繋がりました。具体的な削減率は、取り組み開始前と比較して〇〇%(例: 5%)の削減を見込んでいます(または達成しています)。
- ブランドイメージ向上: 「もったいないを活かす」企業の姿勢が評価され、消費者や取引先からの共感を得ることができました。CSRレポートやメディア掲載を通じて、企業のサステナビリティに対する真摯な取り組みとして認知されました。
- 消費者エンゲージメント向上: レシピ情報へのアクセス数増加やSNSでのレシピ投稿へのポジティブな反応が多く見られ、消費者との新たなコミュニケーションチャネルが構築されました。
- 社内文化の醸成: 従業員の食品ロス問題への関心が高まり、日常業務や家庭での行動にも変化が見られるようになりました。
課題と克服策:
- レシピ開発の効率化: 多様な規格外品に対応するため、レシピ開発には時間とコストがかかることが課題でした。克服策として、基本的な活用方法をパターン化したり、外部の料理研究家や専門学校との連携を模索したりしています。
- 情報発信の効果測定: レシピ公開がどの程度、実際の家庭や事業所での食品ロス削減に繋がっているかを定量的に把握することが困難です。ウェブサイトのアクセス解析やアンケート調査に加え、協力店舗での販売データ連携などを通じて、より詳細な効果測定を試みています。
外部との連携:
前述の通り、本事例では社内の専門家チームに加え、食品スーパーとの店頭連携、料理研究家とのコラボレーション、さらには地域の農業生産者やNPO法人(フードバンク等)との連携も視野に入れています。これにより、規格外品の安定的な調達や、開発したレシピの普及チャネル拡大、社会的インパクトの最大化を目指しています。
評価指標:
主な評価指標としては、ウェブサイトのレシピページ閲覧数、SNSでのエンゲージメント(いいね、シェア、コメント数)、料理教室の参加者数、社内での規格外品利用率、そして可能な範囲での廃棄量削減率(目標値に対する進捗)などを用いています。また、消費者や従業員に対する意識調査も定期的に実施し、啓発効果を測っています。
読者への示唆:自社の活動に応用するために
この事例から、食品関連企業のCSR担当者が学び、自社の活動に応用するためのヒントは多岐にわたります。
- 自社の専門性を棚卸しする: あなたの会社には、どのような「食」に関する専門知識(製品開発、調理技術、栄養学、品質管理、流通ノウハウなど)を持つ人材や部署がありますか?これらをリストアップし、食品ロス削減にどのように活用できるかブレインストーミングを行ってください。研究開発部門、商品企画部、品質保証部、シェフ・栄養士が在籍する部署などが連携候補となります。
- 既存のアセットを活用する: 自社のキッチンスタジオ、テストキッチン、社員食堂、工場見学施設、ウェブサイト、SNSアカウントなど、既存の施設や情報発信チャネルを食品ロス削減啓発・実践の場として活用できないか検討してください。
- ターゲットを明確にする: 誰に対して「食の専門性」を活かした情報や体験を提供したいですか?一般消費者、業務用顧客、従業員、地域の子供たちなど、ターゲットによって最適なアプローチ(レシピ、ワークショップ、情報コンテンツの形式など)は異なります。
- 連携を強化する: 社内の異部署連携はもちろん、外部の料理研究家、教育機関、メディア、さらには自治体やNPOとの連携は、活動の質とリーチを格段に向上させます。特に、専門家である社内外のリソースを巻き込むことが重要です。
- 効果測定を設計する: どのような成果を目指し、それをどのように測るか、活動開始前に計画を立てることが重要です。単なるアウトプット(レシピ数、イベント実施数)だけでなく、アウトカム(廃棄量削減への寄与、対象者の意識・行動変容)を測るための指標設定に挑戦してください。
- 継続性と楽しさを重視する: 食品ロス削減は一過性のイベントではなく、日々の食生活や業務の中での継続的な取り組みが重要です。開発したレシピや情報はアーカイブ化し、定期的に更新・再発信する仕組みを作ると良いでしょう。また、レシピ開発コンテストや料理教室など、参加者が楽しみながら学べる工夫を取り入れることも有効です。
まとめ
食品関連企業が持つ「食」に関する専門性は、食品ロス削減という社会課題に対する強力な解決策となり得ます。レシピ開発や調理技術、栄養知識などを活用した啓発・実践支援は、消費者や事業所の行動変容を促し、実際の食品ロス削減に貢献する実践的なCSRアプローチです。
本稿で紹介した事例や示唆を参考に、ぜひ貴社独自の「食の専門性」を活かした食品ロス削減CSR活動を企画・実行していただければ幸いです。企業の強みを社会課題解決に繋げるこのアプローチは、企業価値の向上と持続可能な社会の実現の両方に貢献するものと確信しております。