開発段階で食品ロスを最小化:メーカーの研究開発CSR事例
はじめに:研究開発における食品ロス削減の重要性
食品ロス削減は、製造、流通、小売、そして消費段階のそれぞれで取り組むべき課題ですが、製品が生まれる最も上流の工程である「研究開発(R&D)」段階でのアプローチも極めて重要です。原材料の選定、配合の最適化、加工技術の開発、賞味期限の設定など、製品設計の段階で食品ロス発生の可能性を低減することは、その後のサプライチェーン全体におけるロス削減に大きな影響を与えます。
研究開発段階での食品ロス削減は、単に廃棄物を減らすだけでなく、資源の有効活用、コスト削減、製品の品質向上、そして企業のブランドイメージ向上に繋がります。これは、食品関連企業のCSR活動として、環境負荷低減と事業継続性の両立を図る上で不可欠な視点と言えるでしょう。本記事では、食品メーカーが研究開発部門と連携し、開発段階から食品ロス削減に挑む具体的なCSR事例とその示唆について解説します。
事例紹介:開発段階からの食品ロス削減に取り組むメーカー
複数の食品メーカーが、研究開発の知見を活かして食品ロス削減に貢献するユニークな取り組みを進めています。ここでは、その具体的な事例をいくつかご紹介します。
事例1:原材料の特性を最大限に活かす配合・加工技術の開発
ある飲料メーカーでは、フルーツジュース製造時に発生する搾りかす(パルプ)の利用が課題でした。これまでは一部が飼料などに利用されるのみで、多くが廃棄されていました。研究開発部門は、この搾りかすに含まれる食物繊維やポリフェノールなどの機能性成分に着目。新たな抽出・加工技術を開発し、サプリメントや機能性食品の原材料としてアップサイクルする技術を確立しました。
- 取り組みの背景・目的: 飲料製造工程における主要な廃棄物である搾りかすの有効活用。資源循環の促進と、新たな製品・事業機会の創出。
- 具体的な内容:
- 搾りかすの成分分析と機能性評価。
- 特定の成分を高効率で抽出する技術の開発。
- 抽出成分を安定的に製品に配合する技術の開発。
- 品質、安全性、コストを両立させる生産プロセスの構築。
- 成果・効果: 搾りかすの廃棄量を〇〇%削減(具体的な数値があれば理想的)。新たな製品ラインの構築による事業拡大。環境負荷の低減をアピールしたブランディング強化。
- 課題と克服: 新しい技術開発には時間とコストがかかること。開発部門と製造・マーケティング部門との連携調整。技術のスケールアップと品質管理。これらの課題に対し、経営層のコミットメントのもと、部門横断的なプロジェクトチームを組成し、研究開発段階から製造ラインでの実証実験、マーケティング戦略までを一貫して検討することで克服を図りました。
- 連携: 研究開発部門が中心となり、製造部門(量産化技術)、マーケティング部門(新製品企画)、外部研究機関(成分分析・機能性評価)と連携。
事例2:科学的根拠に基づいた賞味期限設定の適正化
多くの食品メーカーが、食品ロス削減の観点から賞味期限の延長に取り組んでいます。ある菓子メーカーでは、製品の風味や食感の劣化メカニズムを詳細に研究。科学的なデータに基づき、製品設計、原材料の見直し、包装技術の改良を組み合わせることで、品質を損なわずに賞味期限を〇〇ヶ月延長しました。
- 取り組みの背景・目的: 賞味期限切れによる店頭・家庭での食品ロス削減。物流・在庫管理の効率化。
- 具体的な内容:
- 製品の保存試験を多角的(温度、湿度、光など)に実施。
- 製品の劣化に関わる成分変化や微生物の増殖メカニズムを分析。
- 抗酸化作用を持つ原材料の探索・配合。
- 酸素や水分バリア性の高い包装材の評価・導入。
- 改訂された賞味期限に対する消費者受容性の検証。
- 成果・効果: 賞味期限の延長により、流通段階での返品・廃棄が削減された他、消費者もより長く安心して消費できるようになり、家庭でのロス削減に貢献。在庫管理の負担軽減。
- 課題と克服: 既存の製造ラインや原材料サプライヤーとの調整が必要なこと。賞味期限延長に対する社内外の理解を得ること。社内の品質管理体制を一層強化する必要性。これらの課題に対し、品質保証部門と連携し、厳格な品質評価プロトコルを策定・実施。営業・マーケティング部門と協力して、消費者への丁寧な情報提供を行いました。
- 連携: 研究開発部門が中心となり、品質保証部門(品質評価)、調達部門(原材料サプライヤー)、製造部門(包装ライン)、マーケティング部門(表示、コミュニケーション)と連携。
事例3:ロスを前提としない新しい製品設計
インスタント食品メーカーでは、スープやパスタソースなどの製品で、特定の原材料(例:野菜の端材、骨など)が製造過程で発生するロスとなりやすい傾向がありました。研究開発部門は、これらの「ロスになりやすい部分」を有効活用することを前提とした新しい製品ラインを開発。独自の酵素処理技術や粉砕技術を用いて、通常は利用されない部分から風味豊かなエキスやパウダーを抽出し、新製品の隠し味や主成分として活用しました。
- 取り組みの背景・目的: 製造工程上避けられないロス予備軍の価値転換。資源の有効活用と製品の高付加価値化。
- 具体的な内容:
- 製造工程で発生する端材・副産物の組成分析と利用可能性評価。
- 利用困難な部分から有効成分を抽出・加工する独自技術の開発。
- 開発した素材を製品に活用するレシピ開発。
- 安全性の検証と量産化技術の確立。
- 成果・効果: 特定の製造工程ロスを〇〇%削減。ユニークなコンセプトを持つ新製品の市場投入。企業の革新性とサステナビリティへのコミットメントを強化。
- 課題と克服: 新しい素材の供給安定性やコスト管理。開発した素材の品質が製品全体に与える影響の評価。消費者にとって新しいコンセプトの製品の受け入れられやすさ。サプライヤーとの密接な連携、徹底した品質管理、そしてストーリー性を持たせた製品マーケティングを通じて課題に取り組みました。
- 連携: 研究開発部門が中心となり、調達部門(サプライヤー)、製造部門(工程連携)、マーケティング部門(製品コンセプト、プロモーション)と連携。
読者への示唆:自社活動への応用と学び
これらの事例から、食品関連企業のCSR担当者はどのような示唆を得られるでしょうか。
まず、食品ロス削減を「研究開発段階」から考えることは、CSR活動の視点を拡大し、より根本的な課題解決に繋がる可能性を示しています。従来の「発生したロスをどうするか」という視点に加え、「そもそもロスを発生させない製品設計は可能か」という問いを立てることが重要です。
事例で示されたように、研究開発部門との連携は不可欠です。CSR部門が持つサステナビリティや社会課題解決の視点と、研究開発部門が持つ技術や科学的知見を組み合わせることで、新しい解決策が生まれます。CSR担当者は、研究開発部門に対して、食品ロス削減というCSR課題の重要性や、社会からの期待を伝え、共同で課題設定を行うことから始めることができるでしょう。部門間の壁を越えた、定期的でオープンなコミュニケーションが鍵となります。
また、研究開発段階での取り組みは、成果が出るまでに時間がかかる場合が多く、短期的な目標設定や評価が難しい側面があります。しかし、長期的な視点で成果(環境負荷低減、資源効率向上、新たな価値創出)をどのように測定し、ステークホルダーに報告するかを、計画段階から研究開発部門や経営層と共有しておくことが、取り組みを継続・発展させる上で重要です。定量的なデータ(削減量、活用率など)だけでなく、定性的な変化(企業文化の変化、従業員の意識向上、サプライヤーとの関係強化など)にも注目し、総合的に評価する視点を持つことが望ましいでしょう。
まとめ
食品メーカーの研究開発段階における食品ロス削減への取り組みは、単なる技術革新に留まらず、企業のCSR活動として、環境負荷低減、資源循環、そして新たな価値創造に貢献する重要なアプローチです。本記事でご紹介した事例のように、原材料の有効活用、賞味期限の適正化、ロスを前提としない製品設計などは、研究開発の知見と他部門との連携があって初めて実現するものです。
食品関連企業のCSR担当者の皆様には、ぜひ自社の研究開発部門との対話を通じて、開発段階での食品ロス削減の可能性を探っていただきたいと思います。それは、貴社の食品ロス対策を深化させ、CSR活動の差別化に繋がり、持続可能な社会の実現に貢献する新たな一歩となるはずです。