小売・流通段階における食品ロス削減策:店舗・物流での成功事例と課題
小売・流通段階における食品ロス削減の重要性
食品ロスは、製造、流通、消費の各段階で発生しますが、小売・流通段階も大きな割合を占めています。この段階での食品ロスは、商品の品質劣化や期限切れ、過剰発注、配送時の破損などが主な原因となります。食品関連企業、特に小売業や卸売業にとって、この段階での食品ロス削減は、環境負荷低減というCSRの側面だけでなく、廃棄コスト削減や販売機会損失の抑制といった事業効率化の観点からも極めて重要です。
多くの企業が食品ロス削減に向けた取り組みを推進していますが、その具体的な内容や成果、課題、そしてそこから得られる学びは、自社の活動を見直す上で貴重な示唆を与えてくれます。ここでは、小売・流通段階における食品ロス削減に焦点を当て、具体的な事例やそこから見えてくる課題、そして今後の展望について考察します。
店舗における具体的な取り組み事例
食品小売店舗では、消費者に最も近い場所で食品ロスが発生するため、様々な工夫が凝らされています。
1. 期限管理の徹底とダイナミックプライシング
多くの小売企業では、商品の消費・賞味期限を管理し、期限が近づいた商品に対して値引き販売を行っています。近年では、この期限管理と値引き販売をより効率的かつ効果的に行うために、テクノロジーが活用されています。
- 背景と目的: 手動での期限管理には限界があり、見切り遅れによるロスや、逆に早すぎる値引きによる利益損失が発生していました。テクノロジーを活用することで、管理精度を高め、最適なタイミングでの値引きにより完売率を向上させ、食品ロスと機会損失の双方を削減することを目指しています。
- 具体的な内容: RFIDタグや二次元コード、AIを活用した画像認識技術などを用いて個々の商品の期限情報を自動的に管理するシステムが導入されています。これらのシステムは、商品の陳列位置情報と連動し、期限が近づいた商品を特定し、従業員に通知したり、自動的に電子タグの値札表示を変更したりします。さらに、過去の販売データや天候、曜日などの情報をAIが分析し、最も効果的な値引き率やタイミングを推奨する「ダイナミックプライシング」を導入する企業も現れています。
- 成果: あるスーパーマーケットチェーンでは、AIを活用した期限管理・値引きシステム導入後、対象商品の食品ロスが平均で20%削減され、同時に値引き販売による売上も増加したという報告があります。
- 課題と克服: システム導入には初期投資が必要であり、既存のPOSシステムや在庫管理システムとの連携が課題となる場合があります。また、従業員が新しいシステムを使いこなせるようにするためのトレーニングも不可欠です。これらの課題に対しては、段階的なシステム導入や、ベンダーとの密な連携、従業員向けの研修プログラムの充実といった対応が取られています。
2. 陳列方法と顧客コミュニケーションの工夫
商品の陳列方法や顧客への情報提供も、食品ロス削減に影響を与えます。
- 具体的な内容: 手前に期限の近い商品を陳列する「先入れ先出し」の徹底はもちろん、期限が比較的長い商品をまとめて陳列するコーナーを設けたり、「てまえどり」(手前の期限が近い商品から取る行動)を推奨するPOP広告や啓発活動を行ったりしています。また、調理例やレシピ情報を併記することで、消費者が手に取りやすくする工夫も見られます。
- 成果: 「てまえどり」推奨の啓発活動を行った店舗では、一部のカテゴリーで食品ロス率が改善したという定性的な報告があります。顧客の意識変容を促すことで、店舗側の努力だけでなく、消費者行動の変容にも繋がる可能性があります。
- 課題: 陳列方法の変更は、従業員のオペレーション変更を伴うため、慣れが必要です。また、啓発活動の効果を定量的に測定することは難しく、継続的な取り組みが求められます。
物流における取り組み事例
物流センターや倉庫における効率化も、食品ロス削減に貢献します。
- 具体的な内容: 需要予測精度を高め、過剰な在庫を持たないよう発注量を最適化しています。また、商品の入出荷管理を徹底し、古い在庫から順に出荷するシステム(FEFO: First-Expired, First-Out)を厳格に適用しています。配送ルートの最適化や、配送時の温度管理・衝撃対策を徹底することも、品質劣化や破損によるロスを防ぐ上で重要です。
- 外部連携: サプライヤー(メーカー)や小売店舗との間で、在庫情報や販売情報をリアルタイムに共有するシステムを構築することで、サプライチェーン全体での可視性を高め、より正確な需要予測と在庫配置を可能にしています。フードバンクなどと連携し、まだ食べられるが市場価値が低下した商品を寄付する仕組みを構築している企業もあります。
- 成果: 物流における在庫管理システムの高度化やサプライヤーとの連携強化により、物流拠点での返品や廃棄率が低下したという事例があります。
- 課題: サプライチェーン全体での情報連携には、システム投資だけでなく、関係者間の合意形成や協力体制の構築が必要です。また、イレギュラーな状況(天候不良、交通網の麻痺など)が発生した場合の対応力も求められます。
活動の成果評価と課題克服のヒント
食品ロス削減活動の成果を評価するためには、削減された食品の量(重量、金額)、削減率、廃棄コストの削減額などの定量的な指標を設定することが一般的です。加えて、従業員の意識変化や顧客からの評価といった定性的な指標も重要です。
- 評価指標の例:
- 総取扱量に対する食品ロス率
- カテゴリー別の食品ロス率
- 廃棄物処理費用の削減額
- 食品ロス削減に関連する従業員の提案件数や実行率
- 顧客へのアンケート調査結果(例: 食品ロス削減の取り組みに対する認知度、評価)
- 課題克服のヒント:
- データ活用の推進: 食品ロスの発生箇所や原因に関する詳細なデータを収集・分析し、根本原因に基づいた対策を講じます。
- 部門横断的な連携: 仕入れ、物流、店舗運営、販売促進など、関連する全部門が連携し、共通の目標に向かって取り組みます。
- 従業員への啓発と巻き込み: 食品ロス削減の重要性を理解してもらい、日々の業務での意識を高めるための研修やインセンティブを導入します。現場からのアイデアを吸い上げる仕組みも有効です。
- 消費者との共創: 「てまえどり」推奨や規格外品の販売など、消費者の理解と協力を得るためのコミュニケーションを強化します。
- テクノロジーの積極的な活用: AI、IoTなどの最新技術を、需要予測、在庫管理、期限管理などに活用し、効率と効果を高めます。
まとめと今後の展望
小売・流通段階での食品ロス削減は、個々の店舗や物流拠点の努力だけでなく、サプライチェーン全体での連携や、テクノロジーの活用、そして従業員や消費者の意識変革が不可欠です。
今後、食品ロス削減の取り組みは、単なるコスト削減や環境対策に留まらず、企業のブランドイメージ向上、顧客ロイヤリティの構築、そして持続可能なビジネスモデルの構築に不可欠な要素となっていきます。特に、デジタル技術を活用した精緻な需要予測・在庫管理や、規格外品を活用した新たな商品・サービスの開発、そして消費者との積極的なコミュニケーションを通じた啓発活動は、他社との差別化を図り、CSR活動のマンネリ化を打破するための重要な鍵となるでしょう。
食品関連企業のCSR担当者は、これらの先進事例や示唆を参考に、自社の事業特性や既存の活動内容を踏まえつつ、より効果的で革新的な食品ロス削減策の企画・実行に取り組むことが期待されます。