食品ロス削減と脱炭素経営:統合アプローチによるCSR実践事例
食品ロス削減と脱炭素経営:統合アプローチによるCSR実践事例
食品関連企業にとって、食品ロス削減は喫緊の課題であり、CSR活動の重要な柱の一つとなっています。同時に、気候変動問題への対応として脱炭素経営を推進することもまた、企業の持続可能性にとって不可欠な取り組みです。これらの二つの課題は密接に関連しており、統合的なアプローチで取り組むことによって、より大きな環境負荷低減効果とCSR価値を創出できることが認識され始めています。
本記事では、食品ロス削減と脱炭素経営を統合して推進する企業のCSR戦略に焦点を当て、具体的な実践事例やその効果、直面する課題、そして今後の展望について考察します。
食品ロスと気候変動の関連性
食品ロスは、その発生段階から廃棄、処理に至る過程で温室効果ガス(GHG)排出に大きく寄与します。
- 生産段階: 食品を生産するために必要な土地利用、水、肥料、エネルギーの使用はGHGを排出します。生産された食品が消費されずに廃棄されることは、これらの資源の無駄となり、その分のGHG排出が無意味になります。
- 加工・輸送・流通段階: 食品の加工、包装、輸送、保管には大量のエネルギーが使用されます。これらの過程で発生するロスは、それまでに投入されたエネルギーとその排出量を無駄にします。特に長距離輸送や冷蔵・冷凍保管はエネルギー消費が大きい要因です。
- 廃棄・処理段階: 廃棄された食品が埋立処分されると、嫌気性分解によってメタンガスが発生します。メタンガスは二酸化炭素の25倍(100年間の地球温暖化係数)の温室効果を持つ強力なGHGです。焼却される場合も、化石燃料由来のエネルギーを使用して焼却することによる排出が発生します。
したがって、食品ロスを削減することは、食料システム全体のGHG排出量を抑制することに直結し、企業の脱炭素目標達成に不可欠な要素となります。
統合アプローチによるCSR戦略の事例
多くの先進的な食品関連企業は、食品ロス削減を単なる廃棄物対策としてではなく、サプライチェーン全体での効率化、資源の有効活用、そして脱炭素経営の一部として位置づけ、統合的な戦略を推進しています。
事例1:製造工程におけるロス削減と再生可能エネルギー活用
ある菓子メーカーでは、製造工程で発生する製品規格外品や端材の削減に徹底的に取り組むと同時に、工場の使用電力を再生可能エネルギーに転換する取り組みを進めています。
- 具体的な内容: 製造ラインの最適化による歩留まり向上、AIを活用した品質管理システム導入による不良品削減、発生してしまった端材の飼料や肥料へのアップサイクリング。同時に、工場屋根への太陽光パネル設置や再生可能エネルギー由来電力への切り替え。
- 背景・目的: 食品ロス削減によるコスト削減と資源有効活用に加え、製造工程におけるCO2排出量の大幅削減を目指す。環境経営の強化とブランドイメージ向上。
- 成果: 製造工程における食品ロス率が10%削減され、それに伴う廃棄物処理コストと関連エネルギー消費を抑制。再生可能エネルギー導入と合わせ、工場全体のCO2排出量を基準年比で25%削減。
- 課題と克服: アップサイクリング先の確保や品質維持の課題があったが、地元の畜産業者や農業法人と連携し、安定的な供給体制を構築。社内の製造・品質管理・環境部門が密に連携することで、統合的な目標設定と進捗管理を実現。
- 評価: 食品ロス削減量(重量、金額)、GHG排出量削減効果(t-CO2e)、再生可能エネルギー導入率などを統合指標として評価。
事例2:サプライチェーン全体での可視化と物流効率化
大手食品流通企業では、サプライチェーン全体での食品ロス削減と物流におけるCO2排出量削減を同時に推進しています。
- 具体的な内容: 高度な在庫管理システムと需要予測AIを導入し、店舗や配送センターでの過剰在庫や欠品を抑制。共同配送やモーダルシフト(トラックから鉄道・船舶への転換)による輸送効率化、電気自動車や燃料電池車への切り替えを推進。
- 背景・目的: 流通段階での食品ロス削減による経済的損失の抑制と、物流セクターにおける脱炭素化への貢献。
- 成果: 食品ロス率を平均5%改善し、廃棄コストを削減。輸送距離短縮、積載率向上、低排出車両への転換により、物流におけるCO2排出量を15%削減。
- 課題と克服: サプライヤーから消費者までの複雑な情報の共有と連携が課題であったが、IoTを活用したリアルタイムの在庫・輸送状況モニタリングシステムを構築し、関係者間で情報共有を促進。物流パートナーとの連携強化や、初期投資が必要な低排出車両導入に対する投資計画策定。
- 評価: 食品ロス発生率(拠点別、品目別)、輸送距離あたりのCO2排出量(g-CO2e/tkm)、モーダルシフト率、低排出車両導入率などを指標として評価。
統合アプローチのメリットと課題
統合的なアプローチで食品ロス削減と脱炭素経営に取り組むことは、企業に多くのメリットをもたらします。
- 相乗効果による効率化: ロス削減は資源・エネルギー投入の削減に繋がり、直接的なCO2排出量削減効果があります。また、効率的なサプライチェーンは、ロス削減と同時に物流や保管におけるエネルギー消費も抑制します。
- コスト削減: ロス削減による廃棄コスト、エネルギーコスト、原材料コストの削減。
- リスク低減: 気候変動リスクへの対応力強化、法規制への適応。
- ブランド価値向上: 環境意識の高い消費者や投資家からの評価向上、従業員のエンゲージメント向上。
一方で、課題も存在します。
- 部門間連携の難しさ: 製造、品質管理、物流、販売、環境、CSRなど、多岐にわたる部門間での目標共有と連携が不可欠ですが、組織の壁が存在する場合があります。
- データ収集と分析: サプライチェーン全体での食品ロスとGHG排出量に関する正確かつ統合的なデータを収集・分析するシステム構築が必要です。
- 投資判断: 先進技術や設備への初期投資が必要となる場合があります。
これらの課題克服には、経営層のコミットメント、全社的な目標設定、部門横断的なプロジェクトチームの設置、デジタル技術の活用などが重要となります。
読者への示唆:貴社のCSR活動への応用
食品ロス削減と脱炭素経営の統合アプローチは、貴社のCSR活動をより戦略的で効果的なものにするための重要なヒントとなります。
- 統合的な目標設定: 食品ロス削減目標とGHG排出量削減目標を連携させ、両者の貢献度を明確にする。
- サプライチェーンの可視化: 自社の活動のみならず、サプライヤーや物流、販売パートナーとの連携を強化し、食品ロスとGHG排出量の「見える化」を進める。
- 技術活用: AI、IoT、データ分析などのデジタル技術を活用し、需要予測精度向上、在庫最適化、輸送効率化、エネルギー管理を推進する。
- 従業員の巻き込み: 両者の関連性や重要性を従業員に周知し、日々の業務でのロス削減・省エネ行動を促進する。
- 外部連携: 研究機関との技術開発、環境NPOとの啓発活動、他企業との共同物流など、外部との連携により取り組みを加速させる。
- 評価と情報開示: 食品ロス削減量とそれによるGHG排出量削減効果を定量的に評価し、CSRレポートなどで積極的に情報開示を行う。LCAの考え方を取り入れることも有効です。
この統合アプローチは、単なる環境対策に留まらず、事業効率の向上、新たなビジネス機会の創出、そして企業価値の向上に繋がる可能性を秘めています。既存の食品ロス削減活動がややマンネリ化していると感じる場合、脱炭素経営との連携という視点を加えることで、より革新的でインパクトのあるCSR戦略を構築できるでしょう。
まとめ
食品ロス削減は、食料安全保障、資源の有効活用、そして経済的な側面だけでなく、気候変動対策としても極めて重要です。食品関連企業が食品ロス削減と脱炭素経営を統合的に推進することは、環境負荷の低減を最大化し、企業の持続可能性を高める上で有効な戦略です。サプライチェーン全体での可視化、技術活用、部門・外部連携、そして統合的な目標設定と評価が、このアプローチを成功させる鍵となります。貴社のCSR活動において、食品ロス削減と脱炭素経営のシナジーを追求し、より効果的な取り組みを進めていくことが期待されます。