サプライヤーと共に取り組む食品ロス削減:調達段階に焦点を当てたCSR事例
調達段階の食品ロス削減がもたらすCSRへの新たな視点
食品ロス削減に向けた企業の取り組みは、製造、小売、物流、そして消費段階まで、サプライチェーンのあらゆる領域で進められています。しかし、その中でも見過ごされがちなのが「調達段階」における食品ロスです。農産物の規格外品、漁獲・畜産の計画外の変動、原材料の過剰生産など、サプライヤー側で発生するロスは、結果としてサプライチェーン全体に影響を及ぼし、企業の事業リスクやコスト増大に繋がる可能性を持っています。
食品関連企業にとって、調達段階における食品ロス削減への貢献は、単なる環境問題への対応に留まらず、サプライヤーとの信頼関係構築、安定した原料調達、サプライチェーン全体のレジリエンス強化といった、多岐にわたるCSR上の価値を生み出す重要なアプローチとなります。本稿では、この調達段階に焦点を当てた企業のCSR活動事例とその実践的な側面についてご紹介します。
具体的な調達段階での食品ロス削減CSR事例
調達段階での食品ロス削減に取り組む企業の事例は多様化しています。ここでは、いくつかの代表的なアプローチとその詳細を解説します。
事例1:農産物サプライヤーとの連携による規格外品活用・全量買い取り制度
取り組みの具体的な内容、仕組み: ある大手食品メーカーA社は、主要な農産物である特定の野菜について、契約農家からの規格外品(サイズ、形、色などが市場基準を満たさないが品質には問題ないもの)の全量買い取り制度を導入しました。これにより、農家は安心して生産量を確保でき、規格外品を廃棄する手間とコストを削減できます。買い取った規格外品は、加工ラインでピューレやペースト、カット野菜などに利用し、新たな商品開発や既存商品のコストダウンに繋げています。
活動を開始した背景や目的: 背景には、気候変動による収穫量の変動リスク増加、農家の高齢化と後継者不足、そして消費者からのサステナビリティへの意識向上がありました。目的は、サプライヤーである農家の経営安定化を支援し、長期的な信頼関係を構築すること、そしてフードサプライチェーン全体での食品ロス削減に貢献することでした。同時に、規格外品の活用による原材料コストの最適化も視野に入れています。
達成された成果や効果: 制度導入後、契約農家での当該野菜の食品ロスが約30%削減されました(A社調べ)。また、農家からの信頼度が向上し、より安定した供給体制を構築できました。規格外品を活用した新商品の開発や、既存商品への活用により、年間〇〇トンの廃棄物削減と、原材料コスト〇〇円の削減に貢献しています。定性的な成果として、農家とのコミュニケーションが密になり、生産計画の精度向上や栽培方法に関する情報交換が活発になったことも挙げられます。
直面した課題と克服策: 当初の課題は、規格外品の受け入れ基準の設定と、加工ラインでの処理能力でした。規格外品とはいえ品質にばらつきがあるため、品質管理部門と連携し、加工に適した最低限の品質基準を明確にしました。また、加工ラインの増設や、外部の加工業者との連携体制を構築することで、処理能力の課題を克服しました。
他企業、NPO/NGO、自治体、研究機関など、外部との連携事例やその効果: この取り組みをさらに発展させるため、A社は地元の研究機関と連携し、規格外品に含まれる栄養素を最大限に活用するための加工技術の研究開発を進めています。また、自治体と協力し、制度の対象農家を広げるための情報提供や、農業団体への啓蒙活動も実施しています。
活動の成果をどのように評価しているか: A社では、定量的な指標として、サプライヤーにおける食品ロス削減量(廃棄量)、活用された規格外品の量、原材料コスト削減額を追跡しています。定性的な指標としては、サプライヤー満足度調査、連携プロジェクトへの参加率、ステークホルダーからの評価(CSRレポートや外部評価)を重視しています。
事例2:加工食品メーカーB社における原料サプライヤーとの共同での歩留まり改善
取り組みの具体的な内容、仕組み: 加工食品メーカーB社は、主力製品に使用する特定の水産物原料のサプライヤーと連携し、原料の前処理工程における歩留まり改善に取り組んでいます。B社の技術者とサプライヤーの担当者が定期的に会合を持ち、製造工程を詳細に分析。廃棄される部位や、処理過程での損傷によるロスを削減するための技術的な改善策や、作業手順の見直しを共同で検討・実施しています。
活動を開始した背景や目的: 背景には、原料価格の高騰リスク、水産資源の持続可能性への懸念、そして製造コスト削減の必要性がありました。目的は、サプライヤーにおける原料ロスを削減することで、貴重な資源を有効活用し、サプライヤーの経営効率向上を支援すること。これにより、安定供給とコスト安定化を図るとともに、サプライチェーン上流での環境負荷低減に貢献することを目指しました。
達成された成果や効果: 共同での改善活動の結果、サプライヤーにおける原料の前処理工程での歩留まりが約〇〇%向上しました。これは、B社にとって原料調達コストの安定化に繋がり、サプライヤーにとっては廃棄物処理コストの削減と、同じ量の原料からより多くの製品を生産できるというメリットをもたらしました。双方にとって経済的メリットが生まれるウィンウィンの関係が構築されました。
直面した課題と克服策: 課題の一つは、サプライヤー側の既存の製造ラインや技術への介入に対する抵抗感でした。これを克服するため、B社は一方的な指示ではなく、共同プロジェクトとして位置づけ、サプライヤー側の知見や経験を尊重する姿勢を徹底しました。また、改善効果を具体的に数値化し、経済的なメリットを明確に示すことで、サプライヤーの積極的な参加を促しました。
他企業、NPO/NGO、自治体、研究機関など、外部との連携事例やその効果: B社は、この取り組みで得られた知見を、同業他社や業界団体と共有する検討を進めています。業界全体の水産資源の有効活用に貢献するため、ベストプラクティスの普及を目指しています。
活動の成果をどのように評価しているか: 定量的な評価指標としては、サプライヤーにおける原料歩留まりの変化、廃棄量の削減トン数、原料調達コストの安定度を用いています。定性的な側面としては、サプライヤーとのコミュニケーションの質、共同プロジェクトの継続性、そして業界におけるリーダーシップとしての評価を注視しています。
分析・考察:調達段階CSRから学ぶ、自社活動へのヒント
これらの事例から、食品企業の調達段階における食品ロス削減CSR活動は、単なる社会貢献ではなく、サプライチェーン全体の効率化、リスク管理、そして新たな価値創造に繋がる戦略的な取り組みであることが示唆されます。
- サプライヤーとの共創: 成功の鍵は、一方的な「指導」ではなく、サプライヤーをパートナーと見なし、共に課題解決に取り組む「共創」の姿勢です。サプライヤーの現場の知見や課題に真摯に耳を傾け、技術支援や契約の見直しなど、双方にとってメリットのある解決策を共に探求することが重要です。
- 経済的合理性の追求: CSR活動を持続可能なものとするためには、社会的な価値創造と同時に、経済的な合理性も追求する必要があります。規格外品活用によるコストダウン、歩留まり改善による効率向上など、事業メリットに繋がるアプローチは、取り組みの継続性を高めます。
- 川上への視点拡大: CSR担当者は、自社の工場や店舗といった「見える」範囲だけでなく、サプライヤー、さらにその先の生産者といった「川上」にまで視野を広げることが求められます。サプライチェーン全体の課題を把握することで、より根本的な食品ロス削減策や、他社との差別化に繋がるユニークな取り組みが見えてくる可能性があります。
- 部門横断的な連携: 調達部門、品質管理部門、研究開発部門、製造部門といった、様々な部門との密な連携が不可欠です。CSR部門がハブとなり、各部門の専門知識を結集することで、実効性の高いソリューションを生み出すことができます。
まとめ:持続可能なサプライチェーン構築に向けた調達CSRの展望
調達段階における食品ロス削減への貢献は、企業のCSR活動ポートフォリオにおいて、今後ますますその重要性を増していくでしょう。サプライヤーとの連携を深化させ、共に課題を克服していくプロセスは、単にロスを減らすだけでなく、より強固でレジリエントなサプライチェーンを構築することに繋がります。
今後は、テクノロジーを活用した生産・流通情報の可視化、共同での品質管理プラットフォームの構築、そして業界全体での共通基準づくりなど、より高度な連携が求められる可能性があります。食品企業のCSR担当者にとって、サプライヤーとの対話を通じて川上の課題を深く理解し、ビジネスと社会課題解決を両立させる革新的なアプローチを模索していくことが、持続可能な食の未来を創造する上で不可欠となります。